会社をリタイアして一年目。毎日が日曜日という日々を送っています。しかも一人暮らしですから何の気兼ねもなく気楽な隠居生活というところでしょうか。しかし何もすることのない日々は呑気ではありますが刺激に乏しく少し退屈です。そんな生活をしているとよく昔のことを思い出します。特に中学受験をしたあの頃が懐かしく、そして誇りにも感じるようになりました。小学校5年生の3学期も終わろうとしている頃でした。ある日の夕飯の後、自室でぼーっとしていたところへ父親が入ってきました。そして突然「中学校はどこに行きたいか?」と聞いてきたのです。そんなこと私は意識もしていませんでしたし、決まった区立の中学校に行くと思っていましたから「〇〇中学校に行く」と答えました。すると父はあの中学校は不良が多いとか評判があまりよくないと言うのです。30分もそんな話を聞かされました。そして「思い切って試験を受けてみるか?」と言われました。私にはそれがどんなものなのかサッパリわかりませんでしたが、その区立の中学校には行きたくないなと思うようになっていましたので、頷いてしまったのです。それから1年間の受験勉強です。学校の友達とは遊べなくなり、テレビも土日以外は見られない状況です。日曜日には有名予備校に通う羽目にもなってしまいました。私は学校での成績は中の下というところでしたが、半年でクラスで2番の成績まで上がりました。1番は麻布中学に入った本当に頭のいい友人でしたので、しかたありません。夏休みも過ぎた頃です。親父がまた部屋にやってきて言いました。「第一志望のK中学校はお前の成績では難しいようだ」と。「ランクを下げてS中学かW中学にしよう」と言われました。その時私は結構ショックを受けてしまい「俺はやっぱりバカなんだ!」と落ち込んでしまいました。受験日の直前の日曜日です。親父から「亀戸天神に行くぞ!」といわれバスに乗り亀戸に行きました。そのバスの中で天神様は受験生の願いを叶えてくれる神様だと教わりました。受験時期でしたから亀戸天神は結構な賑わいでした。親父に連れられてお参りをして、絵馬を買って祈願を書き帰ってきました。天神様のおかげかどうかはわかりませんが、合格しました。もし不合格であったら天神様を罵っていたでしょう。これが願掛けという初めての体験でそして最後の願掛けでした。今でも亀戸天神に訪れると、受験生たちの絵馬を読んで応援しています。
63歳男 今では懐かしい、中学受験の思い出
